何が起きたのか

2026年9月13日に投開票された沖縄県知事選は、新人の古謝玄太氏が423,124票を得て初当選し、3期目を目指した現職の玉城デニー氏は276,060票にとどまった。票差は147,064票である。当日有権者数は1,165,704人、投票者数は717,714人、投票率は61.57%で、前回2022年の57.92%を3.65ポイント上回った。有効投票は712,120票、無効投票は5,584票だった(沖縄県選挙管理委員会「開票速報(最終確定)」同「投票速報(最終確定)」)。

敗戦後、玉城氏は「選挙に名を借りた酷いありさまが野放しになっている。特にSNSの状況。国として早急に対策を講じてほしい」と述べ、県外からの誹謗中傷やデマによって有権者の選択が歪められた可能性に言及したと報じられている。

この主張は二つの命題に分かれる。第一に「デマは実在したか」。第二に「デマが結果を決めたか」。この二つは別の問いであり、答えも別々に検証しなければならない。

第一の問い デマは実在した

デマの存在については、報道機関のファクトチェックで確認されている。

投開票2日前の9月11日、玉城氏になりすました不審なメールが報道関係者らに大量送信された。内容には「沖縄県」を「琉球県」へ改称するという架空の公約と、投票すれば「お礼の品」を渡すという文言が含まれていた。送信元のドメインは実在の選挙事務所のものではなく、国内のレンタルサーバーを経由していた。玉城氏の選挙事務所は「すべて事実無根のデマ」とする抗議声明を出し、公職選挙法235条(虚偽事項公表罪)違反として刑事告訴の手続きに入るとした(琉球新報)。

同様に、古謝氏側についても、陣営が使っていないスローガンを載せた偽のポスター画像が拡散した。生成AIで作られたとみられる中傷動画も確認されている。古謝陣営も同じ11日に「勝手な憶測や悪意のある切り抜き、誰かを傷つけるような発信はやめましょう」とする文書を出した。偽情報は双方に向けられていた。

量的にも異常だった。沖縄タイムスの集計では、8月1日から31日のX(旧Twitter)投稿は玉城氏関連が1,445,574件、古謝氏関連が523,979件で、玉城氏関連が2.76倍に上る。拡散上位20件のうちネガティブな内容は玉城氏関連が19件、古謝氏関連が5件だった(沖縄タイムス)。東京新聞が分析ツールで8月1日から26日の関連投稿約59,000件を調べたところ、発信地は東京都25%、沖縄県17%、大阪府8%だった(東京新聞)。告示後1週間のYouTube関連動画は2,871本、上位30本の再生は計約5,020万回で、発信元が確認できたものはすべて県外だった。X投稿は9月10日時点で約150万7千件、うち約9割が県外発信とされる(神戸新聞)。

ここまでは事実である。「デマはあった」は真とみてよい。

第二の問い 検証の枠組み

では、それが票を動かしたのか。デマが結果を左右したのなら、次の四つが同時に観測されるはずである。

検証項目デマが効いていた場合に見えるはずのもの
接触量SNSに長く触れる年代ほど、投票行動が大きく変化する
時系列その変化が今回はじめて現れる(前回・前々回には無い)
規模動いた票数が、接触量の多い層の有権者数と投票率で説明できる
分布情報の届き方の違いが、地域ごとの票の動き方の違いに現れる

順に見ていく。

年代でどれだけ接触量が違うか

総務省の調査から、年代ごとのスマートフォンとSNSへの接触量を整理する。

年代スマホでのネット利用率SNS利用率モバイル経由のネット利用時間(平日)ソーシャルメディア利用時間(平日)
10代86.9%91.8%198.2分67.0分
20代91.6%95.0%194.7分67.0分
30代93.2%91.4%132.7分48.0分
40代92.4%90.1%126.6分35.7分
50代90.0%85.4%107.7分31.5分
60代78.8%77.5%83.3分15.0分
70代53.0%66.0%39.7分6.0分
80歳以上18.7%51.3%

(利用率は総務省「通信利用動向調査」2024年、利用時間は総務省情報通信政策研究所「令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」。令和7年版情報通信白書データ集より)

保有・利用の有無で見ると年代差は意外に小さい。60代のSNS利用率は77.5%、70代でも66.0%に達する。しかしこれはLINEを含む数字であり、選挙の話題が流れる場への接触量で見ると差は一気に開く。ソーシャルメディアの平日利用時間は20代の67.0分に対し60代15.0分、70代6.0分で、20代と70代では11倍の開きがある。Xの利用率は20代78.0%に対し60代22.1%である。

逆方向のデータも押さえておく。テレビ(リアルタイム)視聴時間は70代が310.7分、60代が226.7分で、10代の39.7分の6倍から8倍にあたる。新聞閲読の行為者率は70代52.9%、60代35.6%に対し、20代は1.4%である。高齢層は依然として既存メディアの中にいる。

動いたのはどの年代か

出口調査の年代別傾向を三回分並べる。

選挙保守系候補が上回った年代オール沖縄系候補が上回った年代
2018年10〜20代30代以上
2022年30代以下40代以上
2026年60代以下70代以上

(2026年はNHKおよび報道7社の当日出口調査。NHK調査は県内32投票所で3,950人を対象に実施し、2,490人から回答を得た)

一見すると、接触量の多い若年層ほど保守系に投票しており、SNSの影響を裏づけるように見える。しかしこの構図は2018年から一貫している。若年層が保守系に傾く傾向は、玉城氏が39万6632票を得て圧勝した2018年の時点ですでに観測されていた。2026年に新たに生じたものではない。

そして2026年に動いたのは、10〜20代ではなく30代から60代である。この層のソーシャルメディア利用時間は15.0分から48.0分で、10〜20代の67.0分の半分以下にあたる。接触量が最大の層ではなく、中位の層が動いている。境界線は2018年の「20代と30代の間」から、2022年は「30代と40代の間」、2026年は「60代と70代の間」へと、選挙ごとに一段ずつ上に移動してきた。連続的な移動であり、単一の選挙で起きた断絶ではない。

若年層だけでは14万票差は作れない

沖縄県選挙管理委員会は知事選について年代別投票率の抽出調査を公表している。直近で公表されている2018年知事選の数字は次の通りである(沖縄県「年齢別投票状況」)。

年代投票率投票者に占める構成比
10代47.27%1.9%
20代44.90%8.6%
30代57.29%14.4%
40代65.50%17.7%
50代72.20%17.0%
60代76.83%20.7%
70代77.88%12.4%
80代以上51.88%7.4%

20代と30代を合わせても投票者の22.9%にすぎない。この比率は2010年知事選25.6%、2014年知事選24.9%、2018年知事選22.9%と、むしろ低下してきた。一方で60代以上は40.5%を占める。接触量が最も多い層の票の重みは、接触量が最も少ない層の半分強しかない。仮に20代と30代の全員が投票先を変えたとしても、それだけで14万7064票の差は生まれない算術になる。

票は8年かけて減っていた

オール沖縄系と保守系の得票を4回分並べる。

選挙オール沖縄系保守系投票率
2014年翁長雄志 360,820仲井眞弘多 261,07664.13%
2018年玉城デニー 396,632佐喜眞淳 316,45863.24%
2022年玉城デニー 339,767佐喜眞淳 274,84457.92%
2026年玉城デニー 276,060古謝玄太 423,12461.57%

玉城氏の得票は2018年の396,632票から2022年に339,767票(−56,865票)、2026年に276,060票(−63,707票)と、二回続けてほぼ同じ幅で減っている。8年間の減少は120,572票である。一度の選挙で急落したのではなく、二期にわたって等速で減り続けた。保守系は2022年に下地幹郎氏が53,677票を分け合ったが、今回は一本化され、2022年の佐喜眞・下地の合計328,521票から423,124票へ94,603票増やした。出口調査では、前回玉城氏に投票した人の約3割が今回は古謝氏に投票したと報じられている。

無党派層では玉城氏がなお上回っていた

偽情報が票を動かすとすれば、支持政党を持たず、判断の手がかりを外部の情報に求める無党派層に最も強く作用するはずである。ここが検証の要点になる。

今回の出口調査で、無党派層の投票先は古謝氏が4割、玉城氏が5割だった。県全体では14万7064票の差をつけられながら、無党派層では玉城氏がなお上回っている。過去の出口調査では、玉城氏は2018年に無党派層の7割以上、2022年にも6割前後の支持を得たと報じられており、水準としては低下している。ただし低下しても首位は保っており、今回の敗北は無党派層の反転によって起きたのではない。

古謝氏は自民・維新・国民民主など6党派の推薦を受け、支持政党を持つ層を固めた。差がついたのは、無党派層ではなく組織票と、前回まで玉城氏に投じていた層の離反である。出口調査によれば、前回玉城氏に投票した人の約3割が今回は古謝氏に投票した。339,767票の3割は約10万票にあたる。投開票2日前に出回った偽メールで説明できる規模ではない。

参加は減らず、増えたのは当日票

デマが有権者の判断を歪めたのであれば、投票への忌避や棄権の増加という形でも現れうる。実際には逆だった。

期日前投票は347,169人で、前回の351,937人を4,768人下回った。一方で投票者総数は675,168人から717,714人へ42,546人増えている。差し引きすると、当日投票が323,231人から370,545人へ47,314人(14.6%)増えた。増えた票はすべて投票日当日に投票所へ足を運んだ人によるものである。偽メールが出回ったのは投開票2日前の9月11日で、期日前投票の大半はすでに終わっていた時期にあたる。

投票率の内訳も確認しておく。男性60.86%、女性62.24%で、女性が1.38ポイント上回った。市町村別では41市町村のうち27市町村で前回を上回り、単純平均では1.89ポイントの上昇だった。県全体の上昇幅3.65ポイントとの差は、人口の多い市部で上げ幅が大きかったことによる。那覇市は53.97%から59.71%へ5.74ポイント、浦添市は55.73%から61.71%へ5.98ポイント上昇している。関心は確かに高まった。ただし関心の高まりが偽情報によるものか、保守一本化で構図が明確になったことによるものかは、投票率のデータだけでは切り分けられない。

「県外発信9割」は何を意味するか

投稿の発信地が県外に偏っていたことは、玉城氏の主張を補強する材料にも、その逆にもなりうる。

補強する側から見れば、県政に責任を持たない県外の発信者が、県内の選択に影響を与えようとしたことになる。実際、玉城氏関連の投稿の発信地は東京26%に対し沖縄13%で、県内発は2割に満たない。

しかし逆の読み方も成り立つ。発信が県外に偏っているということは、閲覧もまた県外に偏っている可能性が高い。YouTube上位30本の再生は約5,020万回に達したが、沖縄県の有権者は1,165,704人である。再生の地理的な内訳は公表されていないため確定はできないが、5,020万回の大半が県内の有権者によるものと考えるには無理がある。同じ構図は2024年の兵庫県知事選でも観測されており、関連動画の再生は1億8千万回を超え、発信の約8割が県外だった。宮城県知事選でも約8割が地元以外からの発信だったとされる。県外発信が大半を占めるという現象は沖縄に固有のものではなく、近年の首長選に共通して現れている。

沖縄の情報環境そのものが特殊なわけでもない。九州・沖縄のインターネット利用率は84.4%で、全国平均85.6%とほぼ同じである。インターネット利用時に「真偽の不確かな情報を見たり、拡散したりしてしまわないか」を不安に感じる人は全国で20.4%にとどまる(総務省「通信利用動向調査」2024年)。偽情報への警戒は、まだ社会全体で高いとは言えない。その意味で、玉城氏が対策の必要性を訴えたこと自体には根拠がある。争点になるのは、それが今回の敗因だったかどうかである。

41市町村の動きはほぼ一様だった

県選管が公表する市町村別の確定得票から、玉城氏の得票率(有効投票に占める割合)を2022年と2026年で比較した。

  • 玉城氏の得票率は41市町村のうち40市町村で低下した
  • 低下幅の平均は10.44ポイント、中央値は11.20ポイント、標準偏差は4.67ポイント
  • 最大は与那原町の15.00ポイント減。唯一上昇したのは久米島町(13.25ポイント増)で、2022年に下地氏が一定の票を得た地域にあたる
  • 2022年の玉城氏得票率と2026年の得票率の相関係数は0.845。支持の地理的な分布はほぼそのままで、水準だけが平行に下がった
  • 投票率の変化と玉城氏得票率の変化の相関係数は−0.13で、ほとんど関係がない

もし特定の地域で拡散した情報が票を動かしたのなら、市町村ごとの振れ幅に偏りが出るはずである。実際に観測されたのは、県全体に等しくかかった平行移動だった。ただし市町村単位の集計から個人の投票行動を推定することには限界がある(生態学的誤謬)。この分析が否定できるのは「地域差として現れるほどの局所的な効果」までであり、県全体に一様にかかった影響までは否定できない。

結論 「あった」と「決めた」の距離

整理する。

支持される主張――偽情報は実在し、量は異常で、内容は玉城氏に不利な側へ偏っていた。発信の大半は県外からだった。これらは報道各社のファクトチェックと投稿分析で裏づけられている。

データが支持しない主張――その偽情報が147,064票の差を作った。接触量が最大の年代ではなく中位の年代が動いており、その動きは2018年から続く連続的な傾向の延長にある。若年層の票の重みは構造的に小さく、投票参加はむしろ増え、41市町村の動きは一様だった。

より説明力が高い要因――保守系の候補一本化、出口調査で「経済」を重視した人が50%と「基地」の21%を大きく上回った争点構造、そして二期8年かけて進んだ支持の逓減である。辺野古移設についても出口調査では賛成50%が反対43%を上回った。

検証できない部分――SNSが個々の有権者の判断にどう作用したかは、集計データでは測れない。報道7社の出口調査には「投票でSNSや動画サイトを重視したか」という設問があるが、公表されている数値は限られる。年代別投票率も、2022年と2026年の知事選については県全体の集計が公表されていない。

影響が無かったと断定することはできない。断定できるのは、今回の票差を偽情報だけで説明することはできない、ということである。この二つの間には大きな距離がある。そして、その距離を埋めるために必要なのは、より強い主張ではなく、より細かいデータの公開である。年代別投票率の速やかな公表と、出口調査の集計値の開示があれば、次の選挙では同じ問いにもっと精度の高い答えを出せる。

出典

  • 沖縄県選挙管理委員会「令和8年9月13日執行 沖縄県知事選挙 開票速報(最終確定)」「投票速報(最終確定)」
  • 沖縄県選挙管理委員会「投票率の推移」「年齢別投票状況(抽出による調査)」
  • 沖縄県選挙管理委員会「令和4年9月11日執行 沖縄県知事選挙 開票速報(最終確定)」
  • 総務省「通信利用動向調査」(2024年)、総務省情報通信政策研究所「令和6年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」、令和7年版情報通信白書データ集
  • 琉球新報、沖縄タイムス、東京新聞、神戸新聞、NHK、日本経済新聞の各報道

市町村別の得票率の比較、相関係数、投票者の年代構成比は、上記の一次資料をもとに当編集部が算出した。